<ロッキー・バルボアを愛した人々>エイドリアン、アポロ、ポーリー…そしてファン
バート・ヤング演じるポーリー 映画『ロッキー』(1976)より 写真提供:AFLO
エイドリアンの兄であり、ロッキーの親友。ロッキーとエイドリアンが結婚した後は、ロッキーの義兄となり、本物の家族となる。ポーリーは恐ろしく自己中心的であり、自身の境遇に対して非常に強い不満を持ち、アルコール依存の傾向があり、激高しやすくケンカに弱いという、絵に描いたようなダメ人間。誰かの幸せや成功が妬ましくて仕方がなく、強烈な自己憐憫の感情を常に抱えて、周囲の皆は自分に借りがあると思い込んでいる。しかし「殴らないでくれよぉ…」「仕事をくれよぉ…」「生まれ変われたらお前のようになりたい…」とポーリーが本音を吐露する瞬間、観客の多くは心の底をえぐられるような感覚を受けるはずだ。このシリーズにおけるポーリーは成功したロッキーの合わせ鏡的存在であり、ロッキーはそれを知っているからこそポーリーを最後まで傍らに置き、決してポーリーを見放すことは無かった。ポーリーもまた、ロッキーを侮辱する者が現れると100倍の罵声を浴びせ、決戦に向かうロッキーには奮起させるエールを送るのだった。『ロッキー4』ではロボットのSicoという良き理解者を得ていたが、しばらくすると無かったことに。生涯をロッキーと共に過ごし、2012年2月22日死去。
映画『ロッキー・ザ・ファイナル』(2006)より 写真提供:AFLO
ポーリーを演じたのは、もちろんバート・ヤング。大量のフィルモグラフィを誇り、後期サム・ペンキパー映画の常連でもあったヤングは、17戦全勝のプロボクサーでもあった。『ロッキー』でミッキー役のバージェス・メレディスと共にアカデミー助演男優賞にノミネートされている。
■我々『ロッキー』サーガのファン
1976年、わずか110万ドルで制作された『ロッキー』に世界は熱狂し、世界で2億ドル以上を稼ぎ出すメガヒットを記録した。当時誰も知らなかったシルヴェスター・スタローンという映画人は、この一作で世界的な知名度を博した。何より世界中にロッキーというキャラクターのファンが大量に生まれ、劇中に登場するフィラデルフィアのフィラデルフィア美術館正面玄関の階段(通称ロッキー・ステップ)では、多くのファンが階段を駆け上がってガッツポーズをとるようになっていた。
『ロッキー2』(1979)、『ロッキー3』(1982)、『ロッキー4/炎の友情』(1985)という続編が登場し、批評的には徐々に評価を落としていったが、興行収入は右肩上がり。ファンはロッキーの活躍に一喜一憂し、常にロッキーに寄り添ってきた。しかし1990年、スタローンがシリーズの大団円を狙って制作した『ロッキー5/最後のドラマ』は、批評的にも興行的にも大惨事となった作品で、これまでついてきたロッキーファンもさすがに首を傾げる作品となってしまった(公開から30年経った今観ると、実はすごく良い映画である)。
映画『ロッキー』(1976)より 写真提供:AFLO
それから16年後の2006年、突如『ロッキー・ザ・ファイナル』が公開。誰もが「今さらロッキー?」と懐疑的になっていたが、批評的にも興行的にも大成功。感動的な結末を迎えた『ザ・ファイナル』のエンドロールは、ロッキー・ステップを駆け上がるロッキーファンの映像で終わる。あの場に行ったことがあるファンも無いファンも、皆の心は常にロッキーと共にある。スタローンはそれが分かっているのだ。そしてコロナ禍のステイホーム時にスタローン自身が再構築した『ロッキー vs ドラゴ:ROCKY IV』は、『ロッキー4』でスタローンがファンにとって意味のないと思えるシーンを削除し、ファンがよりキャラクター心理を理解するシーンだけを追加した激熱バージョン。是非楽しみにしていてほしい。(文・高橋ターヤン)
映画『ロッキー vs ドラゴ:ROCKY IV』は、8月19日より公開。