ハマる人続出! 市原隼人の新たな代表作『おいしい給食』はなぜこんなに面白いのか
●『おいしい給食』の素晴らしき様式美
グルメドラマ『おいしい給食』におけるクライマックスは、当然給食を食べるシーンになる。しかし、そこまでに打たれる布石もまたこのドラマの醍醐味。冒頭からその日の給食に関係する学園シーンが描かれ、10分が経過する頃に軽快なリズムのアコーディオンの音色が響き、生徒たちが給食を運んでくる。食事の前にみんなでパンチの利いた校歌を歌い(このシーンの甘利田先生が毎回最高)、「いただきます」の号令とともにお待ちかねの食事シーンへ。ここまでの展開はほぼパターン化された『おいしい給食』の様式美であり、その変化が笑いやドラマを生む要素となっているのが面白い。
ドラマ『おいしい給食』 (C)2019「おいしい給食」製作委員会
そして肝心のバトル要素だが、このドラマでは2人が給食中に火花を散らすバトルを展開したりはしない。グルメドラマの醍醐味は、あくまでおいしそうなメニューの紹介。「いただきます」の後、至高の時間を満喫する甘利田先生の様子がグルメ紹介として展開され、給食愛に溢れた甘利田自身の心の声がナレーションとして挿入されつつ、時には豪快に、時には繊細に、おいしそうに平らげていく様子が描かれる。そして満足げに“戦い”を終えた甘利田が一息ついたところで、「ん?」と神野ゴウに目を向けると、今度は神野が自身の戦いを甘利田の前で披露。その奇想天外なアレンジの食べっぷりを見て、甘利田が驚愕するというのがお決まりだ。
ドラマ『おいしい給食』 (C)2019「おいしい給食」製作委員会
●全話がまさに神回
『おいしい給食』のすごさは、全話が神回と言っても過言ではない面白さを持っているところ。ファンは、これが決して大げさな表現ではないことをご存じのはずだ。甘利田とゴウの戦いも、単に「王道を味わう甘利田」VS「アレンジレシピの神野」という図式だけではなく、バラエティに富む。
例えばシーズン1第4話の「八宝菜に欠かせないもの」では、前半の授業のシーンで太宰治の「走れメロス」、そして給食のおばさんの体調不良を取り上げる。その後の給食シーンで、甘利田はメインおかずの八宝菜に何か違和感を覚えるが、いつも通りおいしく平らげてしまう。そしてふと神野を見ると、まだ給食に手も付けていなかった。「嫌いな野菜があったに違いない」と今日の勝利を確信する甘利田だったが、その時…。
ドラマ『おいしい給食 season2』 (C)2021「おいしい給食」製作委員会
実はここまでで、オチへのヒントがちりばめられている。何が起こるのかはぜひ本編を観て確かめてほしいのだが、毎回ドラマ前半で描かれる何気ない出来事が、給食のシーンで点から線につながるのが快感。ほかにも美術の時間にゴウが描いた不思議な絵の謎と「酢豚」がつながる第5話、みんな大好き「ヤキソバ」をなぜか生徒たちが食べない第9話など、ちょっとした謎解きをはらんだ展開が肩肘張らずに楽しめるのも魅力だ。
見どころは給食シーンだけにとどまらない。CMを除いて約24分という短さの中では、ふつうの学園ドラマのように、さすがに生徒ひとりひとりの問題に焦点を当てるような描き方はできない。しかしながら、要所で描かれるわずかだが秀逸な学園ドラマ要素を毎話積み重ねることで、『おいしい給食』は グルメバトルコメディであると同時に、“学園ドラマ”だと言いきれるクオリティに仕上がっていることも見逃せないだろう。