『唄う六人の女』石橋義正監督、10年ぶり新作に込めた“人と自然の共生”への思い
映画『唄う六人の女』メイキング写真 (C)2023「唄う六人の女」製作委員会
――ストーリーの構築や、撮影場所となる森探しにかなりお時間をかけたと聞いています。
石橋:物語を作るのに3年半程かかりました。リサーチの過程で参考になったのが、『地球で最も安全な場所を探して』というドキュメンタリーです。原子力発電推進派の核物理学者が、原発反対派の映画監督と、毎年増え続ける高レベル核廃棄物の処理場として相応しい、人類や環境に害を及ぼさない安全な場所を探すというもの。その中で色んな国の人にインタビューをしているのですが、アメリカ、ワシントン州に暮らすネイティブアメリカンのヤカマ族の人の言葉がとても胸を打ちました。核廃棄物を処理するための土地として、先祖から引き継いできた場所を提供することは、悪魔に魂を売る行為だというようなことを彼は言います。自分たちの世代が決断したこの行為が、未来に生きるものにとって良いはずがないという感覚は、日本人も普通に持っているんじゃないかと思います。
――石橋監督自身が、森の荒廃に気付くようになったきっかけはありますか?
石橋:トレッキングで山に入るようになったことは間接的には関係しているかも知れませんが、直接的に森に入って危機感を抱いたということではなく、元々、日本人の価値観には自然と密接に通じ合うものがあるという根底から出た題材だと思います。実家が京友禅を手掛けていることもあって、意匠を通じて、日本人の美意識は自然から作られていることは、幼い頃から教わってきました。そして目に見えない身の周りに様々な生命が宿っているという感覚は常にあり、それはみんなも持っていることだと思っています。この映画がそのような感覚を取り戻してもらうひとつのきっかけになればと思います。
映画『唄う六人の女』メイキング写真 (C)2023「唄う六人の女」製作委員会
――映画の中で、水川あさみさん、アオイヤマダさん、服部樹咲さん、萩原みのりさん、桃果さん、武田玲奈さんたちが演じる六人の女たちは、人間に直接語りかけることのできない精霊のような存在なのか、それともある特定の人間だけが見ること、感じることができるものなのか、観客に委ねられていますが、それぞれのモチーフはどういう基準で選ばれたのでしょうか?
石橋:自然界を全ては網羅できないですが、生態系を6種類に分けて、その象徴たるものを六人の女たちのモチーフとして選んでいます。映画の中に芦生の森で撮影したカツラやトチの大木が出てきますが、彼女たちとその大木が繋がっているような形を想定していて、この地球の生命のサークルを象徴的に6という数字に込めています。
映画『唄う六人の女』メイキング写真 (C)2023「唄う六人の女」製作委員会
――竹野内豊さんを、主人公の萱島に選んだ理由は?
石橋:萱島は都会で成功しているコマーシャルフォトグラファーという設定で、そこが竹野内さんのイメージに合うところに加え、ユーモラスな部分や軽妙さの表現もさらりとこなせる方だと思います。オファーする前から、私の制作活動に興味を持っていただいていたそうで、お声をかけさせていただいたとき、『自分が出演してもいいんですか?』ととても真剣にこの企画を受け止めてくださったんですね。いろんなことに興味持ってくださっている方で、会話をしていても、シンパシーがあう気がして、話が進みました。
――地域の山の開発を狙っている宇和島役には、石橋監督の前作『ミロクローゼ』で主演を演じた山田孝之さんが演じていらっしゃいます。今回はプロデュースも兼ねていますが、石橋監督にとってどういう存在ですか?
石橋:山田さんは『ミロクローゼ』のときもそうだったのですが、彼であれば間違いないと思っていました。非常に身体能力の長けた方。『唄う六人の女』はファンタジーで、リアリティを持たせるのは難しい部分もあり、役者の説得力が必要でした。そこは山田さんの胸を借りようと。また台本を仕上げていく中で、アクションがいくつか重要になってきたのですが、実際の撮影現場では山田さんが相手役の女優陣にアクション指導をしてくれ、相手役の良さを引き出すような動きを演じてくれたり、本当に素晴らしい役者だと改めて思いました。さらに今回は、共同プロデューサーとしても活躍してくださった。コロナ禍や資金集めで一時、ストップしかけた時期もありましたが、制作が再びスタートしたのは山田さんのおかげで、今回、いろんなコラボができたのも彼の力が大きいです。
映画『唄う六人の女』場面写真 (C)2023「唄う六人の女」製作委員会
――萱島と宇和島は、当初は共同関係にありますが、次第に対立の関係になっていきます。
石橋:この物語は、萱島と宇和島という二人の男が森に囚われるという側面よりも、萱島と宇和島は人間の二面性を体現していて、どちらの性質も人間が併せ持つものです。二人は人が入れないような森の奥深い部分に入ってしまい、最初は二人で森からでていこうとして共闘しますが、最終的には決別をするに到る。でも最後の最後はやっぱり一緒なんですね。
このエンディングをどう持っていくかはかなり悩みました。最初に台本を書いたときには、もっと批判的な終わり方にしていたんです。でもそれだと説教くさくなって逆に言いたいことがちゃんと伝わらないのではないかとあらため、自分たちの考えや行動で未来は変えられると、希望を持てるエンディングに変えました。
本作はタイトルに「唄う」と入っていますが、映画の中で六人の女たちは唄うどころか声も出さない。私達人間は、虫や植物の声は聞こえないですが、人間が想像力を働かせて聞こうとすると、聞こえてくるんじゃないか。そのメッセージを映画の本編、そしてエンディングに込めました。
(取材・文:金原由佳)
映画『唄う六人の女』は全国公開中。
映画『唄う六人の女』本ビジュアル (C)2023「唄う六人の女」製作委員会