石田ゆり子、“理想の上司”評は「役得ですね(笑)」 デビュー35年で培った仕事観とは
――ご自身が演じている洋子さんをどんな女性だと思いますか?
石田:シェパードキャリアという会社の社長ですが、あまり社長然としていなくて、みんなのことを俯瞰でいつも眺めている保護者みたいな存在ですね。何事にも縛られることなく、全体を包み込んでいる、いいお姉さん、いいお母さんのような気持ちで演じています。ちなみに、洋子自身の過去などは7話〜9話で出てくるので、見どころは後半なんですよ。
――姪の役を演じられている小芝風花さんの印象はいかがですか?
石田:まだ26歳だそうですが、本当にしっかりとした方だなと。本当に忙しいと思うんですけど、いつも変わらずきっちりセリフが入っていて、すごいなといつも思います。
――本作でも『逃げ恥』でも、ヒロインを溺愛するおば(本作では叔母、逃げ恥では伯母)という役柄ですが、石田さんご自身にも姪御さんがいらっしゃるそうですね。姪を溺愛する気持ちに共感するところはありますか?
石田:私自身は姪に対してもっとクールというか、あまり姪の生活に介入することはないですね。もちろんかわいがる気持ちは分かりますし、頼ってきたら助けてあげたいと思いますけど。でも、1人の大人として見ているので。『逃げ恥』の百合ちゃんにしても、今回の洋子にしても、面倒見のいいおばさんという役柄なんですよね。私ってそういう風に見えるのかな、面白いなとは思います。
――どちらの役柄も共感というより、ご自身からは少し距離を置いて見ている感覚でしょうか。
石田:そうですね。洋子についても、私自身、正直、掴みどころがないと感じる部分もあるんですよ。みんなにとっていい上司、いい社長ってなんだろうなと考えたとき、絶対に部下のことを否定しない、やりたいことをとりあえずは肯定している人のような気がして。その点、洋子は説教もしないし、自分で考えなさいと本人に任せる。姪の千晴にも「自分で決めたことならみんなが応援してくれるから」と言って、自立を促す人なんですよね。
そもそもシェパードキャリアそのものがそういう会社で、何をやりたいか、この人に何が向いているかをつなげてあげる会社ですし。共感というより、客観的に見て洋子はすごいな、立派な人だなと思っています。
――最近は後輩や若い世代にとっての理想の上司や道標のような役柄を演じられることが多いですね。
石田:いや、もう歳だからでしょう(笑)。実際に年齢的に彼らにとって私は上司やお母さんの年齢だからだと思います。
――上司像としても、グイグイ引っ張っていくというより、包み込んでくれるイメージがあるのは、石田さんご自身のイメージが反映されているのでは。
石田:そうですかね? それは役得ですね(笑)。百合ちゃんなど、これまで演じてきた役のイメージでそう思われているんでしょうね。
――ご自身にとって洋子さんのような道標的な先輩はいましたか。
石田:すてきな先輩はいっぱいいるのですが、私たちの上の世代、団塊の世代の方々はやっぱりすてきだなと思います。今、70歳ぐらいの方々ですね。この時代を生きてきた人たちって、みんなものすごく個性があって、今の人たちにはない破天荒さや大胆さ、強さ、人情味もあって。日本が1番発展する時に青春時代を生きてきた方はやっぱり魅力的ですよね。
私たちは、そういう世代に比べると味気ないというか、ちょっとあっさりした世代で、そんな私たちの後輩の世代はみんな良くも悪くもクリーンになっている。一人一人が均一化しているというか、似通ってきている気がします。それは時代のニーズなのか流れなのか分からないけど、そこは正直、まずい傾向だなとも思うんですよ。
――ご自身が憧れる団塊の世代に倣って、後輩世代に背中を見せる立場として、少し破天荒をやってみようみたいな思いもありますか?
石田:うーん……私は自分が責任を取れないことはできないと思っているので。仕事を受ける時もそうですし、何か行動を起こすときも、人のせいには絶対できないので、結果はどうあれ、自分が好きなことをやりたいんですね。それが結果的に若い人たちの刺激になればと思っています。
――本作で来栖さんが言うセリフ「あなたの正解はあなたにしかわからない」にも通じますね。自分の好きなことが分からない人にアドバイスはありますか?
石田:自分とちゃんと向き合っているかどうかだと思います。自分が何をするときに幸せか、時間を忘れて夢中になれることは何なのかとか、まずそこから考えたらいいんじゃないかなと思います。自分の好きなことって、人に聞くものじゃないから。
――石田さんご自身には仕事上でこれまでそういう迷いは全然なかったですか。例えば受けた仕事で「これは違う」と思ったり、悩んだりしたご経験は?
石田:私の場合、自分の役柄が好きか嫌いかということよりも、自分が視聴者や観客だったらこの作品を自分が見たいか、その作品を作っている人たちと一緒に仕事をしたいかでオファーを受けるか決めている感じですね。ドラマや映画は1人でやるものではないので、その座組に入りたいかどうかが基準です。
これはあんまりだったなと思うことも正直いっぱいあるんですけど、それでもそこから何かを学ぶことはできると思うんですよね。つまらなかったら、そこから何かを研究しようとか、つまらないと思うのはどういうことなのか考えてみようみたいに、自分の中で切り替える時はあります。
自分はいつも俯瞰で見るところがあるので、つまらないときはその状況を面白がってみる。そういう性格なんですね(笑)。
――さまざまな仕事の人に刺さりそうなアドバイスです。
石田:自分中心にモノを考えるとすごく狭くなってしまうけど、自分を離れて全体として見ると、結構面白いのかもなと思えてきますよね。これは女優という仕事柄のせいだと思うんですけど。ちょっと引いて全体を見るのは、役を演じるときに、自分であって自分じゃない目線を持つことなので。でも、そうして見ると、何でもたいていのことは、まあいいんじゃないのと思える気がします(笑)。
(取材・文:田幸和歌子 写真:高野広美)
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