『エブエブ』旋風巻き起こるも、大どんでん返しはある? 間もなく開催<第95回アカデミー賞>
第95回アカデミー賞授賞式がいよいよ今週末に迫った。誰が、どの作品が受賞の栄誉に浴するのか。前哨戦の動向も振り返りつつ、注目のノミネートをチェックしよう。
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■『エブエブ』が前哨戦を席巻! それでも油断ならないのがオスカー
今年のフロントランナーは間違いなく『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』。アワードシーズン初期にはスピルバーグの『フェイブルマンズ』が有力視されていたが、年が明けて以来、完全なる『エブエブ』祭り状態だ。今作はまず、1月中旬の放送映画批評家協会賞(Critics Choice Awards/CCA)で、作品、監督、脚本、助演男優、編集の5部門を受賞。2月末には全米映画俳優組合賞(SAG)、プロデューサー組合賞(PGA)というオスカー予測上最も重要な賞を受賞し、先の日曜にはオスカー前の最後の賞であるインディペンデント・スピリット賞でも作品賞を含む7部門で受賞した。もはや怖いものなしである。
オスカー最多10部門11ノミネートの『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』 (C)2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.
ここまで制覇するとオスカー作品賞も確実と言いたいところだが、必ずしもそうとは言い切れない。過去を振り返ってみればわかる通り、どんでん返しはあり得るのだ。『ブロークバック・マウンテン』と『ラ・ラ・ランド』は最も良い例。この2作品もあらゆる賞を制覇してきながら、最後にはそれぞれ『クラッシュ』、『ムーンライト』に負けている。
今年の場合、どんでん返しをやってみせる可能性が最もあるのは『西部戦線異状なし』だろう。この映画は英国アカデミー賞(BAFTA)で作品、監督、脚色を含む7部門を受賞し、圧倒的勝利を収めているのだ。かたや『エブエブ』は、BAFTAでは編集部門しか受賞しなかった。また今作はドイツ映画とあり、SAG、PGAの対象外で、『エブエブ』は対抗せずに済んだという事実も忘れてはならない。もし資格があったとしても、北米在住の投票者が圧倒的に多いこれらの賞はやはり『エブエブ』を選んだのではないかと思われるが、現在のアカデミーには海外在住者が非常に増えている。会員の多様化に本腰を入れ始めた2016年以後、毎年、アカデミーの新規会員のおよそ半分は海外に住む映画人なのだ。彼らの影響力は、今や多大なのである。
ドイツ映画『西部戦線異状なし』 写真提供:AFLO
もうひとつ考慮すべきは、作品部門の投票形式だ。ひとり、あるいはひとつの候補を選んで入れるほかの部門と違い、作品部門に関しては、投票者が全部の候補作に順番をつける形で投票する。このやり方では、好き嫌いが極端に分かれる作品よりも、多くの人が3番目くらいまでに入れる作品が有利となる。コメディ、SFの要素がある『エブエブ』は、いわゆる「オスカーらしい」映画からはほど遠く、高齢のベテランアカデミー会員の中にはピンとこないという人もいるのではないかと思われる。一方で『西部戦線異状なし』は、ドイツ語ではあっても反戦メッセージを持つ歴史映画で、そういった層に受け入れられやすい。だが、その意味では、『イニシェリン島の精霊』『フェイブルマンズ』も同様で、これらにもまだ希望はある。『トップガン マーヴェリック』も「面白くなかった」という人はまず聞かれないし、チャンスはあるが、演技部門にまるで入らなかったのが痛いところだ。