緒方恵美「失ったら声優として生きていけない」 どんなにつらくても持ち続けた“目線”
新たなフェーズに突入したことがうかがえる緒方。2022年は声優活動30周年の節目の年でもあり、今後ますますの活躍が期待される。「詳しくは(著書の)『再生(仮)』を見ていただければ」と前置きしつつ、芝居と音楽に対する思いを語ってくれた。
「お芝居というものはよく『仮面を付ける』という言い方をしますが、私自身は『どうやったら仮面を剥ぎ取れるか』が手段だと思っています。例えば少年を演じるのであれば、大人の自分についてしまった仮面を剥ぎ取り、仮面が付いていなかった年齢の頃にまで行く必要がある」と明かす。「特に自分は器用ではないので“剥ぎ取る”ことを手段にしていたのですけど、やはり過渡期みたいな時期もあって…大人として対応しなきゃいけないことがわっと増えた時期に、その目線を持って生きるというのが非常につらく感じることがあって、『痛いし、きついし、嫌だ。もうその目線は捨ててしまいたい』と思うことはありました」。
役に“なる”ことを究極的に突き詰める緒方ならではの孤高の苦しみともいえるが、「ただ一方で、『これを失ったらもう絶対、私は声優として生きていけない』という直感がありました。それで仕事が増えるわけではないし、誰かが気付いてくれるわけでもないけど、『自分の中でその目線を捨ててはいけない』ということだけをずっと思いながら作業をしていました」と、決して投げ出すことはなかった。
そんな緒方の“目線”を理解してくれた人物こそ、長年苦楽を共にしてきた庵野秀明だった。アフレコ直後、全てを出し尽くしてスタジオの床にへたり込んで立てなくなっていた緒方に歩み寄り、手を握って「その気持ちをずっと持ち続けてくれてありがとう」と声をかけてくれたという。「庵野さんだけが気付いてくれた」と明かす緒方の“継続は力なり”を地で行くエピソードだが、その苦労を経た現在は「いまだにこうやって中学生や高校生の新しい役をやらせていただく機会があって、すごくありがたいです」と晴れやかな表情で語る。
音楽に関しては、「2010年をきっかけに『これ以降は、人の背中を押す曲しか作らない』と決めて、チームでいろいろな方を元気にするための音楽を作ってきました。音楽業界は現在とてつもなくしんどい状況ですが、その中でも機会があるうちは頑張って作って、歌っていきたい」と意欲を見せる緒方。「自分はよく『言葉の力が強い』と言われるのですが、セリフでも歌でも、カッコいい感じで言うと『言霊』を感じていただき、元気を届けていけたらと思っています」。
『呪術廻戦』において、呪術師は人の負の感情から生まれる“呪力”を扱い、呪いをはらう。一方で、人々を元気づける「言霊」を扱う緒方は、さながら“祝詞”の使い手のようだ。この先も、表現者として多くの人々を笑顔にしていくことだろう。(取材・文:SYO 写真:高野広美)
『劇場版 呪術廻戦 0』は全国公開中。