「今はもっと楽しみたい」M・ナイト・シャマラン監督が若い時の自分に伝えたいこと
●登場人物にはシャマラン監督の身近な人を反映
――登場人物には、ご自身の体験が反映されていますか?
シャマラン監督:そうですね。小さいトレントは私のある部分を表しているし、ガイやドクターには、私自身や家族、そして認知症の父を表しています。クリスタルのような美しい人も身近にいます。ですから彼らが映画を観ると、「あの人、私のこと書いてる!?」と言うんですが、「そんなことないよ!」と言っています。ですが実はそうなんです(笑)。
映画『オールド』 (C) 2021 Universal Studios. All Rights Reserved.
――監督の一面を反映した部分を教えてもらえますか?
シャマラン監督:例えば、ガイは保険数理士で、数学やタイムテーブルを使って何が起こるかを予想する人ですが、彼はいつも心配しています。子どもがコーヒーテーブルでけがをするんじゃないかとか。しかしあのような状況に陥り、彼は計算して心配することをやめ、起こっていることに対処し始めます。
私自身もすごく心配性です。チェスの名手の人は、まさに気が狂いそうですが、彼らは現在にいるのではなく、いつも4手先、5手先、6手先を考えていなきゃいけないんですね。常に先を読んでゲームをしている。ところが現実の世界に戻ってもそうしてしまうんです。先のことばっかり考えてしまい、現在に留まれない。私もそういうところがあって、実際の生活でも映画の2年先のことを考えていたりして、いつも心配ばかりしています。そうした面がガイの心配性のところに表れていますね。
●20代、30代は成功を楽しめなかった
――今作のテーマのひとつは「老い」ですが、監督が今のご自身の年齢でこの作品を撮った意義をどう考えていますか?
シャマラン監督:最近、時間についてよく考えるんです。20代って時間のことを考えたりしないですよね。何を達成しなきゃいけないとか、これからどうなっていくのかというのをとても心配している。私は今、ちょうど真ん中にいると思います。子どもたちが大きくなり、親が年老いてきて、自分をどうにかしなきゃとか、これからどうなるのかということにすごくおびえているわけではない。死ぬことがすごく怖いということもない。そういう意味では、すごくいい場所にいると思います。
映画『オールド』NYプレミアに登場したシャマラン監督の娘たち (C) 2021 Universal Studios. All Rights Reserved.
私が『オールド』を書いた時が49歳、撮ったのが50歳だったんですが、頭の中ではいろいろなことがスローダウンして、“もっと楽しみたい”と思うんですね。自分が成功し始めた20代、30代の頃は楽しめなかったんです。ですからこれからは“もっと楽しみたい”と思っています。今回悲しかったのは、日本に行けなかったことですね。日本が大好きだし、日本の文化をとても身近に感じるので、次作ではぜひ行きたいと思っています。
――『ヴィジット』(2015)以降、監督は自分で資金を出して映画を製作されていますが、破産したらどうしようとか心配はありませんか? (笑)
シャマラン監督:ははは! 私はそれまでと違うやり方をしたかったんです。というのも、なんでこんな変なものを作りたいのか、どうしてこの俳優を使いたいのか…というのをいちいち説明したくなかったんです。例えば『スプリット』(2016)では、どうして3人の女の子が誘拐されて2人の子が食べられなきゃいけないのか、なぜフラッシュバックで小さい子が虐待されていなきゃいけないのかということを、逐一説明するのが嫌だったんです。『スプリット』なんて誰もお金を出さないと思うんですよ(笑)。でも自分でお金を出すことによって、こういう美しい世界があるということを見せることができて、そしてそれを世界に封切ることができるというのは、すごくいいことだと思っています。
映画『オールド』メイキング (C) 2021 Universal Studios. All Rights Reserved.
――若い時の自分に伝えたいことはありますか。
シャマラン監督:今、私はほかの人と違う映画を作っている自分を楽しめています。でも、その普通とは違う奇妙な部分を観客がすぐに理解はできないかもしれないけど、何回か見るうちに理解していくんだということを、若い時に知っていればよかったなと思います。『アンブレイカブル』(2000)を作った時、最初はみんなわからないんですよね。映画が封切られた直後は「えー」という感じだったんですが、最後にはみんなわかってきて、だんだんと共感されていく。ですから私は若かった頃の自分に、今みんながわからなくても、後でわかるようになるよ、と伝えたいです。(取材・文:編集部)
映画『オールド』は公開中。