松本幸四郎、歌舞伎休演で自問し続けた5ヵ月間 長男・市川染五郎の飛躍にはエール
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■「舞台がないと役者は何もできないのか」自問した5ヵ月
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、歌舞伎座は3月に公演を中止。7月まですべての舞台が止まってしまった。幸四郎は「舞台がないと役者って何にもできないのかと、無力さを感じました」と振り返る。「ただ、この時期に何かできないか、何かを発信しなければ歌舞伎はなくなってしまうとの思いがありました」。そして始めたのが、オンラインイベントの発信などの新しい取り組みだ。
歌舞伎座は8月1日からの「八月花形歌舞伎」でようやく再開された。だが、感染防止のため観客席は半数以下に減らされ、「高麗屋!」といった大向こうからのかけ声もできない。舞台上や稽古にもさまざまな制約がある。
「8月の再開は舞台の上だけ、お芝居を上演することだけに特化された再開なので、本当の再開はこれからです」と幸四郎。売店の営業や筋書きの販売が再開され、大向こうのかけ声も復活し、幕間には歌舞伎座周辺のいろんな店に行列ができなくては、本当の再開とは言えないという。「待ってくれている方々のためにも何とか早く再開したい。それをどうやったらできるかに知恵を絞るのが、今やるべきことだと思います」。
ただ、今の危機は歌舞伎にとってチャンスでもあるという。制約を乗り越える新たな表現方法はないか、役者同士が接近できないのであれば、近づいて見えるように工夫できないか、そんな模索を続けている。「今の状況は逆に言うと、古典の演出に手が入れられるということでもあるので、ある意味、前向きに考えています」。幸四郎はそう言って笑顔を見せた。(取材・文:角谷正樹 写真:高野広美)
シネマ歌舞伎『三谷かぶき 月光露針路日本 風雲児たち』は10月2日全国公開。