<風の電話>を映画化 主演・モトーラ世理奈×諏訪敦彦監督が紡いだ“さすらい”の物語
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■「まぁメシを食え」その一言がハルを優しく包む(諏訪監督)
――広島で被災した母子、妊婦の姉と気遣う弟、そしてクルド人難民と震災体験者…ハルが<風の電話>にたどり着くまでの出会いやエピソードがとても良かったです。
諏訪監督:出発点を広島にして、ハルの故郷である大槌町までの道筋をまず考えました。ロードムービーって結局、移動していくわけなんですが、旅は、人との出会いによって成立するものじゃないかと。そこでハルが「どういう人たちと会っていくんだろう」ということを想像していきました。
モトーラ:旅先では、嫌な人がほとんど出てこないんですよね。皆さん、それぞれに悩みを抱えているけれど、いい人ばかり。
諏訪監督:途中でちょっと絡まれたりはしますが(笑)、旅の試練として、嫌な人に会ったり、怖い目に遭ったりとか、そういったドラマ的な要素は用意したくなかった。この映画自体、彼女に優しく寄り添っているようなものでありたいと思っていたので。
――かといって、言葉だけの過剰な優しさではなかった。
諏訪監督:結局、ハルは食事をごちそうになっているんですよね(笑)。三浦友和さん、西島秀俊さん、西田敏行さんら、錚々(そうそう)たる役者陣が演じるキャラクターがハルと出会い、後押ししてくれるわけですが、細かいことには無理に踏み込まない。「とにかく、まぁ、食え」と言うだけ。それがなんか、人を包み込む行為というか、「あれこれいいから、とにかく食え」という優しさ、それだけでいいんじゃないかと。
(C)2020映画「風の電話」製作委員会
――ハルとして広島から大槌町まで、さすらってきたわけですが、この旅を通してモトーラさんは何を感じましたか?
モトーラ:撮影中はずっとハルを生きていたので、私というよりもハルの感情でお話すると…一つ一つの出会いがとても温かく、大切なものでした。でも、旅で出会ったら、絶対に別れがくるので、そのシーンは本当に寂しかったですね。
諏訪監督:どこかにハルという役があって、モトーラさんがそれを演じた、という感じではないんですよね。モトーラさんが存在しなかったら、ハルも存在しない。だから、彼女自身は漂っていたというよりも、ハルの中にしっかりいたと思うんです。だから、誰かと出会い、別れて、またひとりぼっちになったとき、心から寂しい気持ちになるんですよね。
――撮影を終えて、モトーラさんの中に何が思いとして残っていますか?
モトーラ:現場はすごく楽しかったです。広島から大槌町まで、本当に皆さんと旅をした感じだったので。それぞれの場所でおいしいものを食べたり、毎晩いろんな話をしたりするのも楽しかった。ただ、撮影自体は、脚本がほぼ決まっておらず、即興芝居が多かったので大変でしたね。特に、岩手に入ってからは<風の電話>のシーンが重くのしかかってきて、ずっと頭の中で「どうしようかな…」って考えていました。