ブラッド・ピット、“父親としての自分”を考えるきっかけに 宇宙で“究極の自分探し”
最新主演作『アド・アストラ』で初の宇宙飛行士役に挑戦した俳優のブラッド・ピット。「ヒロイズムを押し出したありきたりの映画にはしたくなかった」という彼が、壮大な宇宙を舞台に描きたかったものとはいったい何だったのか?父の背中を追って宇宙飛行士になった主人公の苦悩に気持ちを重ねながら、製作者として、俳優として、そして一人の“父親”として、本作に込めた思いを熱く語った。
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宇宙へ旅立ってから16年後、突如消息を絶った宇宙飛行士の父クリフォード(トミー・リー・ジョーンズ)が、48億km離れた太陽系の彼方で生存していることが確認された。しかも彼は、人類を破滅させる実験を繰り返し、脅威の存在となっていた…。本作は、父の救出ミッションを受けた主人公ロイ(ブラッド)が、複雑な思いを抱えながら決死の覚悟で宇宙の彼方へと向かうスペースアドベンチャー。『エヴァの告白』の名匠ジェームズ・グレイが監督・脚本を務めている。
(C)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation
この映画には、シド・ミードが創り出すような洗練された宇宙船も、H・R ・ギーガーが描き出すようなエイリアンも登場しない。そこに存在するのは、壮大な宇宙空間と心に闇を抱えた一人の宇宙飛行士。「実を言うと、僕には宇宙飛行士への憧れもなければ、行きたい惑星もないんだ。なんといっても地球が一番心地いいからね」と笑顔で語るブラッド。そんな彼が、長いキャリアの中で一度も着手しなかった宇宙ものに気持ちを向かわせたのは、ジェームズ監督のアイデアに満ちた脚本だった。
「僕が一番興味を抱いていたのは、SFというジャンルに新たな価値を付けるとしたら、どんなアプローチがあるだろうか? という点。ジェームズの脚本を読んだ時、宇宙という果てしない闇が、人間の孤独を有機的に表す最高の舞台であることに気づかされたんだ」と述懐。さらにブラッドは、「仕事に人生をささげる父を崇拝する反面、愛情に飢えていたロイは、孤独を感じながら成長し、人とうまくコミュニケーションが取れない人間になってしまう。そんな彼が、宇宙の果てで父親と対峙(たいじ)することで、初めて本当の自分に気づかされる…つまりこの映画は、究極の自分探しの旅でもあるんだ」と力説する。
(C)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation
宇宙を駆け巡るヒーローとは程遠い複雑で欠点だらけの主人公ロイ。だからこそ人間の本質が垣間見られ、等身大の苦悩や葛藤が胸に突き刺さる。「ジェームズには、『内面的な表現になるので、演技はすごく抑えるよ』とあらかじめ言っておいたんだ。そして、カメラにそれがちゃんと映し出されているかどうか観てくれと。平坦すぎて、何も感じない時は言ってほしいとリクエストしたんだ」。確かに、ブラッド・ピット史上最もシリアスでナーバス、その心の動きをつかみ取った観客は、ブラッド、いや、主人公ロイの心の葛藤をリアルに共有することになる。