妻夫木聡、“役者の人生を欲しがる”李相日監督と「映画は生きてる」を実感
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『悪人』の原作者・吉田修一と李相日監督が再びタッグを組んだ。さらに『悪人』の主演により、役者としての評価を確たるものにした妻夫木聡が参加と聞けば、期待するなというほうが難しい。その作品は『怒り』。果たして出来上がった群像劇は、凄まじい圧を秘めた作品に仕上がった。東京、千葉、沖縄を舞台に紡がれる3つの物語の東京編によって、作品全体をけん引する妻夫木と、「役者の人生を欲しがる」という李監督への単独インタビューに、“凄み”が湧き出す理由が垣間見えた。
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「いやー、もう立てなかったですね」と完成作を振り返った妻夫木。「隣に(宮崎)あおいちゃんと、(原)日出子さんもいたんですけど、3人とも立てなくて。しばらくしてお母さん(李監督作『69 sixty nine』と同じく、本作でも原が妻夫木の母親役)に、『じゃ、行こっか』って引っ張ってもらってようやく立てた(苦笑)。圧倒されたのと同時に、ほんのちょっとだけ、針で刺した穴ほどの希望の光のようなものがあって、なんとか伝っていかないと、という不思議な思いでした」。
妻夫木が演じるのは、ゲイの優馬。綾野剛扮する住所不定の直人と同棲を始めるも、次第に直人を、ある未解決殺人事件の犯人ではと疑い始める。綾野と実際に生活をともにしていたとイベントで告白して早くから話題になったが、優馬には、直人と出会う前の人生もある。
妻夫木が明かす。「撮影に入る3ヵ月前くらいから、ゲイ友達役のみんなとご飯を食べたり、(新宿)2丁目に行ったりを繰り返してました。ホテルを借りて、音楽を流して疑似パーティをやって、みんなでジャグジーに入ったり」。その世界を知るため、優馬が直人と出会うハッテン場であるサウナの受付でもバイトした。「自分はスイッチ役者じゃないので」と妻夫木。「『悪人』以降ですかね。考える自分を捨てていって、自分がその役、その人になればいいという思いになっていった。李監督だって、パチっとスイッチが入る役者だったら、OKってなるでしょうけど、僕はそんな器用じゃないから」と笑うと、李監督が応じた。
「パチっとなる役者はあまり信用してないかも。僕はよくばりなんですよ。映画に向き合う期間、その時間、その役者さんの人生を欲しがるんです。大げさに言うとね。だからカメラの前だけでパチっとやられても物足りない。当然、撮影が終わったら本人に戻っていいわけですけど、でもこの映画に入っている間は、妻夫木聡ではなく、優馬の人生であってほしい。妻夫木くんとは3回目だから、自分からそこに向かってくれる」。