高橋由美子、アイドルと女優の狭間で葛藤 デビュー30周年を振り返る
■反省はしても後悔はない、出会いと葛藤の30年
“20世紀最後の正統派アイドル”として一世を風靡し、今年、歌手生活30周年を迎えた高橋。1990年にTVアニメの主題歌「Step by Step」でデビューし、1994年、主演も務めたドラマ『南くんの恋人』(テレビ朝日系)の主題歌「友達でいいから」の大ヒットでアイドルとしてブレイクするが、実は1989年に歌手より一足早くドラマ「冬の旅 女ひとり」でデビューを果たし、女優としてキャリアを積んでいる。
「1989年のデビューのドラマで監督から(演技の)千本ノックを受けて、基礎を徹底的に学ばせていただきました。たぶん、女優として『さぁ、これから』という感じの時だったと思いますが、同時期にアニメの主題歌を歌える女の子を探している、というお話をいただいて…。歌は苦手だったのですが、とりあえずオーディションに行ったら、たまたま受かってしまい、そこで運命が大きく変わってしまった」と振り返る高橋。そして、「どうせ1度きり」というラフな気持ちでリリースしたデビュー曲が予想以上にアニメファンから支持を受け、次へ次へとシングルを出すことになり高橋はアイドル歌手としての地位を固めていく。
女優を目指していた高橋とって、最初はアイドル活動に戸惑いを感じていたという。「女優は台本があって、それを演じることによって初めて自分の存在が成立しますが、アイドルってどこに軸を置けばいいのかわからなくて。女優の自分とアイドルの自分、どう分ければいいのか理解できなくなった」と当時の苦悩を明かす。
その時、高橋の悩みをいち早く察知したスタッフが、とてもシンプルで奥の深いひと言を投げかけ、窮地を救う。「無理に分けずに『アイドルを演じれば?』ってアドバイスをいただいたんですが、その言葉でスーッと気持ちが楽になって…いっそアイドルに徹してみたら、高橋由美子がそこにいたんです」。
まわりから求められるアイドル像と自分の気持ちの折り合いがついてから楽しめるようになり、“アイドル冬の時代”と言われるなかでコンサートツアーも精力的に行った。2009年に20周年記念ライブを開催した高橋。チケットは即完売。30周年ライブも現在のコロナ禍では難しいが、「状況がよくなったらやりたいですね」と意欲的だ。
アイドル活動から年齢と共に徐々に活動のフィールドを演技の方へとシフトし、ドラマ『ショムニ』(フジテレビ系)やミュージカル『モーツァルト!』『レ・ミゼラブル』、劇団☆新感線の公演など、女優としてテレビ・舞台などで着実にキャリアを積み重ねてきた高橋。今、改めて30年を振り返ってみると、「人との出会いこそ、私にとって財産。肯定的な方も、否定的な方も含めて、さまざまな人と接することで、ここまでやってこられたと思います」としみじみ語る。
さらに「葛藤もたくさんあった」という高橋は、「何か失敗した時、『あー、やっちゃった!』という衝撃は結構大きいんです。でも、猛省しているうちに、『やってしまったことは仕方がない』と割り切って、大きく受け止めながら少しずつ踏み固めていくことでなんとか乗り越えてきた」と高橋は話す。私も46歳。そろそろ同じ轍(てつ)を踏まないように注意しながら、人生を大切に生きていきたいなと心からそう思いますね」。
“高橋由美子、30年目の再出発”。舞台『時子さんのトキ』で魅せる彼女のパフォーマンスに、女優としての“深化”を期待したい。(取材・文・写真:坂田正樹)
『時子さんのトキ』は9月11日から21日まで東京・よみうり大手町ホール、 9月26日・27日に大阪・サンケイホールブリーゼにて上演。
10月28日には歌手デビュー30周年を記念したベストアルバム『最上級GOOD SONGS[30th Anniversary Best Album]』を発売。シングル全24作品の表題曲に加え、ファンから寄せられたリクエストで票を集めた12曲を収録。さらに、デビューシングル「Step by Step」新録と、21年ぶりの新曲「風神雷神ガール」も追加収録される。