作品にタブーはなし! 製作170本以上のホラー界名プロデューサー、ジェイソン・ブラムに話を聞いた
◆実生活で一番怖いものは?
数々の恐怖映画を生み出してきたブラムだが、身の回りで心霊現象の祟りは? と尋ねれば「ないよ。今のところ(笑)」と余裕たっぷり。では、実生活で一番怖いものは…?
ブラムは即答する。「ドナルド・トランプ」と。
一昨年に全米公開予定だった、ブラム入魂の力作『ザ・ハント』(2020)は米国公開前に起きた銃乱射事件、「リベラルな富裕層がトランプ大統領の支持者を虐殺する」という政治的な曲解、批判を受けて大炎上。トランプ大統領(当時)自身も、作品名こそ挙げなかったもののツイッターで批判して物議を醸し、一時は上映中止に追い込まれてしまった。
「最悪だよ。風刺色は強いが、僕らはジャンル映画として宣伝した。ガチの風刺を期待して劇場にくる人はいないからね。だが、途中で横槍が入り、本来の観客層に届かなかった。今までで最高の映画になったのに!」と心底、残念そうだ。
そんな最悪な経験をしたブラムだが、逆に製作者として最高の喜びを感じる瞬間を尋ねると「一番の喜びは完成試写だね。映画作りには長い準備と多くの対話が求められる。構想10年なんて作品もある。紆余曲折を経て完成品を観る、その瞬間が最高だな」と教えてくれた。
全米で物議を醸した“人間狩り”映画『ザ・ハント』(2020)
写真提供:AFLO
◆作品にタブーはなし 映画業界での葛藤も
21世紀ホラーは人間の悪意を恐怖に変換した作品が多いが、ブラムハウスのホラーは違う。語り尽くされた古典的物語に、時流を読んだ社会風刺や時事問題を敏感に取り入れ、新しい独自のビジョンを開拓する。ブラムは「社会的なメッセージを込めることもあるよ。『ゲット・アウト』のようにね。『透明人間』(2020)でも虐待を題材にした。『ザ・スイッチ』も“あえて”言うなら、ジェンダー・アイデンティティの物語だけど、それ以上に恐くて面白い、ハラハラドキドキの映画に仕上がった。映画の枠組がある以上、主題にタブーは存在しない」ときっぱり語る。
揺るがぬ信条がある限り、ブラム無双は続きそうだが、彼なりの葛藤もあるという。「僕が映画業界で作るのはホラーが8割で、残りの2割が別の作品だ。一方、テレビ業界では逆で、仕事のうちはホラーが2割、シリアスなドラマが8割。米国の奴隷制を取りあげたミニシリーズ『The Good Lord Bird(原題)』(2020)や、セクハラで告発されたFOXニュースの創設者、ロジャー・エイルズを描く『The Loudest Voice(原題)』(2019)も手がけている。でも、映画ではホラー以外の製作は手ごわいんだ。スティーヴ・ワンの素晴らしい脚本があるが、誰も出資してくれない」。
映画を取り巻く環境もコロナ禍で激変した。ブラムの眼は厳しい現状をどう睨んでいるのだろう。「小品が増えたことで、内容をより吟味するようになった。ただ、最も影響を受けたのは映画館の運営だね。劇場で自作を上映したい映画人にとっても大きな痛手だ。ワクチンの開発が早く進むことを祈るよ」。
◆『ザ・スイッチ』今後の展開は?
日本でも先日封切られ、好評を博している『ザ・スイッチ』。『ハッピー・デス・デイ』と同じ世界観とも言える雰囲気を持つ作品だが、今後、両作のユニバース的な展開はあるのだろうか。
「クールだね! 考えたこともなかったが、何事にも絶対に可能性はない、とは言えない」と目を輝かせたブラム。21世紀ホラーのそのまた先へ。コロナ禍を越えて、更なるエンタテインメントの未来を探る辣腕プロデューサーの次なる仕事に期待したい。(取材・文:山崎圭司)
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映画『ザ・スイッチ』は公開中。