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“平手打ち事件”から2年『バッドボーイズ RIDE OR DIE』でスクリーン復帰! 出世作『バッドボーイズ』シリーズからみるウィル・スミス【ハリウッド最前線「第5回」】

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『バッドボーイズ RIDE OR DIE』で主演を務めるウィル・スミス(2022年撮影)
『バッドボーイズ RIDE OR DIE』で主演を務めるウィル・スミス(2022年撮影) (C)AFLO

 米ロサンゼルスを拠点に様々なメディアで活動している映画ジャーナリスト・猿渡由紀さんの連載がクランクイン!でスタート。第5回は、『バッドボーイズ』シリーズの最新作『バッドボーイズ RIDE OR DIE』でスクリーン復帰を果たしたウィル・スミスにフォーカスしたコラムをお届けします。

■スミスを映画スターにした『バッドボーイズ』シリーズ

 オスカー授賞式での平手打ちから2年。ウィル・スミスがついにカムバックを果たした。

 あの出来事以後、初めて主演するメジャースタジオ映画『バッドボーイズ RIDE OR DIE』は、日本よりひと足先に公開された全米で首位スタート。興行収入5600万ドルのオープニング成績は、業界の予測を上回るものとなった。米レビューサイト「ロッテン・トマト」では観客スコア)が97%という高評価、さらにはシネマスコア社の観客評価も「A‐」と立派。1作目『バッドボーイズ』の公開から29年も経っているが、観客に若い人が占める割合が大きかったのも特筆すべきである。

(左から)ウィル・スミス、ジェイダ・ピンケット=スミス(2022年撮影) (C)AFLO
 オスカー授賞式で長編ドキュメンタリー部門のプレゼンターを務めたクリス・ロックがスミスの妻ジェイダ・ピンケット=スミスの髪型をジョークのネタにしたことに腹を立て、スミスが舞台に上がってロックを平手打ちしたことに対し、黒人を含むアメリカ人はスミスを強く非難した。スミスは自主的にアカデミーを退会、アカデミーはスミスに今後10年間、アカデミー主催のイベントに出禁を命じる。

 その時スミスはすでに、オスカー狙いと位置付けられていたApple TV+の『自由への道』を撮り終えており、その年12月の公開前には慎重ながらもプロモーション活動をしたのだが、オスカー候補入りはおろか、観客からも批評家からも評価はまるで振るわず。次で盛り返すことは、スミスのキャリアにとって非常に重要だった。そもそも『バッドボーイズ』は、スミスを映画スターにした作品だ。その4作目でその地位を取り戻せたとは、ある意味、運命的な形で一周したと言えなくもない。

(左から)マーティン・ローレンス、ウィル・スミス(2024年撮影)(C)AFLO
 1995年の『バッドボーイズ』に出演する前、スミスは、『Fresh Prince of Bel‐Air』で知られる注目のテレビ俳優だった。そんな彼を『バッドボーイズ』に誘ったのは、マーティン・ローレンス。直接会ったことはなかったものの、やはりコメディ番組『Martin』ですばらしい才能を見せていたローレンスを、スミスは尊敬していた。

 スミスに電話をかけてきたローレンスは、エディ・マーフィに相手役を頼もうかと思っていたのだが、きょうだいのひとりにウィル・スミスにするべきだと言われて納得したのだと告げる。「それぞれの番組をヒットさせている俺たちが組んだらすごいことになると思わないか?」と言われ、興奮したスミスは、大いに乗り気になった。スミスに務まるのかと不安がるスタジオとプロデューサーを、ローレンスは、スミスを出さないなら自分も出ないとまで主張し、説き伏せている。

 だが、脚本はもともと白人のコメディアン、デイナ・カーヴィとジョン・ロヴィッツのために書かれていたことから、スミスとローレンスが声に出して台本読みをしてみると、まるで可笑しくなかった。プロデューサーのドン・シンプソンはみんなの前で脚本をゴミ箱に捨て、撮影が目の前に迫っているというのに、一からやり直しとなる。現場での即興にも頼り、スミスとローレンスの相性の良さに自信を得たマイケル・ベイ監督は、ふたりに「なんでも良いからカメラが回っている間に何か言え」とまで指示をするようになった。アクションシーンのために密かに準備をしていたスミスがその成果を披露する日が来ると、感激したベイ監督は、「カット」をかけた直後、「今、俺は君を映画スターにしたぞ」と宣言したという。

 そんなふうにバタバタな状況で製作された『バッドボーイズ』は、1900万ドルの予算に対し、全世界で1億4000万ドルを売り上げるサプライズ大ヒットとなった。2003年の『バッドボーイズ2バッド』の世界興収はその2倍(ただし製作予算も大幅に上がった)、2020年1月に公開された『バッドボーイズ フォー・ライフ』は、パンデミックでその後映画館が閉まってしまったこともあるが、その年のナンバーワン映画だ。

(C)AFLO
 1作目の後、スミスには『インデペンデンス・デイ』『メン・イン・ブラック』が続き、ボックスオフィス王の地位を確実なものにすることとなった。今回もこのまま勢いに乗りたいところだろうが、現在、スミスは何も映画を撮影していない。それでも、『バッドボーイズ RIDE OR DIE』の成功は、スミスにも、業界にも、自信をくれたことだろう。オスカー俳優となった彼は、今後どんな作品でその実力を見せていくのだろうか。

猿渡由紀(L.A.在住映画ジャーナリスト)プロフィール
神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「週刊SPA!」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイ、ニューズウィーク日本版などのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

文:猿渡由紀

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