松井咲子、『TAR/ター』の“想像を超えるラスト”に驚き! 「天才と狂気は紙一重」
提供:ギャガ
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第95回(2023年)アカデミー賞の主要6部門にノミネートされたケイト・ブランシェット主演映画『TAR/ター』が5月12日より遂に日本公開! 本作は、『イン・ザ・ベッドルーム』『リトル・チルドレン』でアカデミー賞脚色賞に連続ノミネートされたトッド・フィールド監督が、2度のアカデミー賞受賞経験を持つケイト・ブランシェットとタッグを組んで贈る、16年ぶり待望の最新作。そこでクランクイン!は、映画好きでも知られ、ピアニストとしても活躍する元AKB48の松井咲子にインタビューを実施。様々な視点から本作の魅力をたっぷりと語ってもらった。
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世界最高峰のオーケストラの一つであるドイツのベルリン・フィルで、女性として初めて首席指揮者に任命されたリディア・ター(ケイト・ブランシェット)。彼女は天才的な能力とそれを上回る努力、類まれなるプロデュース力で、自身を輝けるブランドとして作り上げることに成功する。今や作曲家としても圧倒的な地位を手にしたターだったが、マーラーの交響曲第5番の演奏と録音のプレッシャー、新曲の創作に苦しんでいた。そんな時、かつてターが指導した若手指揮者の死によって、彼女の完璧な世界が少しずつ崩れ始める─。
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想像を超える展開に驚き「人としての怖さを感じました」
――まずは、本作をご覧になった率直な感想を教えてください。
意外な展開でした。それはマイナスな意味ではなく、予想の斜め上をいく感じで思わず「そう来たか…」と言ってしまうぐらい、心の奥にずっしりきました。「一人の人生を見た」という重みを感じましたね。
――“映画好き”としても知られる松井さんですが、本作はアカデミー賞主要6部門ノミネート、ゴールデングローブ賞主演女優賞、ヴェネチア国際映画祭女優賞など、世界の映画祭を席巻した話題作です。松井さんも以前から注目されていた作品ということですが、鑑賞前はどのような期待感がありましたか?
音楽映画がすごく好きなので、ピアノやオーケストラが関わっている映画はそれだけで興味を引かれるんです。一人の指揮者にスポットを当てている作品は珍しい気がしますし、映画館で予告を見たときに「何かあるぞ、これは」「これは穏やかに演奏するだけの映画じゃないな」というハラハラ感を感じて、絶対に映画館で見ようと思っていました。
ーー先ほど「意外な展開」とおっしゃっていましたが、どのようなギャップを感じましたか?
「普通の音楽映画じゃない、絶対何か起こる」と思って見たのですが、“何か起こる”どころではなかったです(笑)。サイコスリラー寄りなのかな?と思っていたのですが、もっと“人間臭い”作品でした。音楽を演奏するシーンがあったかと思えば、急に人間臭さを感じさせるシーンもあって…ずっと目が離せなかったです。どんどんのめり込んでいって、159分があっという間に感じました。
ーー既に公開されている本国などでは、主人公演じるケイト・ブランシェットの“怪演”も話題になっています。本作を「ホラーだ」と評する方も多いのですが、この作品の「怖さ」についてどう思われますか?
“人としての怖さ”を感じました。終始不穏な感じがして、明るいシーンでもどこかスカッとしない感じが残っている。その感じがターの心情と重なって、いつか崩れてしまうのではないか…この後どうなっていくんだろうという怖さを常に感じました。
あとは、今社会的に問題視されているようなことが詰まっていて、現代の映画という感じがしました。だからこそリアルだったし、架空の人物の話だとは思えなくて、それが“怖さ”に繋がっていた気がします。“今を生きている人”の人生をのぞき見している感じがグッときました。
――ターという女性を見て、どのように感じましたか?
天才と狂気は紙一重だな、と思いました。最初はあのような展開になると思わなかったので、ターが変わっていく部分にすごく魅了されました。すごい人って人間に見えないときがあるじゃないですか。完璧だったターの人間臭さや泥臭さを見て「ターも人間なんだな」と感じました。
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音楽シーンは圧巻! “絶対音感”で共感する部分も
――音楽は『ジョーカー』でアカデミー賞作曲賞を受賞したヒドゥル・グドナドッティルが担当しています。
私は『ジョーカー』がすごく好きな作品で、日常的にサントラを聞くくらい楽曲も全部好きなんです。なので、ヒドゥル・グドナドッティルさんが音楽を担当されているのも本作を「絶対に見る」と思ったポイントなんです。『ジョーカー』を見た時にも感じたことですが、ヒドゥル・グドナドッティルさんは、音楽で主人公の心情を描くのが得意な方ですよね。本作でそれを確信しました。
――松井さんはピアニストとしても活躍されていますが、オーケストラの演奏シーンはいかがでしたか?
圧巻でした! すごくワクワクして、緊迫感もリアルに感じました。私もオーケストラのみなさんとお仕事をする機会がありますが、いまだに緊張します。みなさん、もちろん優しいのですが、本番前はちょっとピリつく感じもあって…。本作の演奏シーンで、あの独特な緊張感を思い出しました(笑)。
――絶対音感をお持ちの松井さんですが、“ターの生活”を見て共感したことはありましたか?
ターがチャイムの音をピアノで弾いていたシーンがありましたが、私もやります(笑)。あとは、ターが切羽詰まったときに悪夢を見ていましたよね。私も大きな本番前やピアノを弾く仕事の前とかに悪夢を見ることが結構あるんです。
――日常の些細な音に反応してしまうこともあるのでしょうか?
ありますね。例えば駅メロとかは意識しなくても入ってくるので、気づいたらその鼻歌を歌っていて周りにツッコまれることがあります(笑)。もちろんターほどではないですが、周りの音には結構敏感だと思います。
――では、演奏シーン以外で印象に残っているシーンを教えてください。
やっぱり、ラストシーンですね…。これは見た人の意見が分かれると思います。ハッピーエンドだったという方もいれば、そうじゃないと思う方もいると思うので、はやく見た人と語り合いたいです!
――松井さんはどう感じましたか?
どっちだろうなぁ(笑)。今だったらハッピーエンドだなと思えるかもしれないです。
――見る年代によっても違うかもしれないですね。
そうなんですよ! 今の年齢とか、自分の仕事における立場とか、心情によってもすごく見方が変わる映画ですよね。
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“落ちていく姿”に痺れて、目が離せない
――主人公のターは女性指揮者としてオーケストラを牽引していたわけですが、松井さんはAKBグループに所属されていた中で、ストイックなリーダーというとどなたを思い浮かべますか?
その反面、「今無理しているんじゃないかな?」と心配になる部分もありました。あんな小さな体で背負うには荷が重すぎるだろうなって…。当時は気付かなかったけれど、大人になって客観的にあの状況を考えたときに「あれを10代20代でやってたんだ」と思うとやっぱりすごいなと思います。 />
私たちの中での「リーダー」は、やっぱりたかみな(高橋みなみ)さんです。でも、ターのような怖いイメージではなくて、先頭に立ってまとめてくれるリーダーという感じでした。たかみなさんは10代、20代の若さでリーダーをしてくれていたので、本当に尊敬していますし、絶対にいなければダメな存在でした。
――では、リーダーとしてのターのことはどのように感じましたか? 少し厳しい指導者でしたよね。
地位があって欲しいものが手に入る場所にいたからこそ、あのようになるのもわかります。だからこそ“落ちていく姿”に人間臭さを感じました。あんなに名誉がある人だけど、自分の掴んだ幸せがどんどん落ちていく。言い方が難しいのですが、そのダメになっていく様子をもっと見たいと思わせてくれるケイト・ブランシェットの演技に痺れましたし、目が離せなくなりました。
――ターは高い意識で、自身を「リディア・ター」というブランドとして築き上げていますが、松井さんは元AKB48、タレント、音楽家とさまざまな顔をお持ちです。自身の「ブランド」を作り上げる上で意識していることがあれば教えてください。
私自身は、あまり意識してないです(笑)。むしろ、ありのままでいることを大切にしています。テレビ番組でピアノを演奏する機会をいただくようになってから、「気が強そう」「負けず嫌いそう」とか言われることが多いのですが、実際はそんなことないんです。“元akb48”だから、“ピアニスト”だからとか、世間一般のイメージじゃなくて、素の松井咲子を見てもらいたいといつも思っています。
――最後に、これから本作をご覧になる方に向けて、“映画”と“音楽”、両方の視点から改めておすすめしたいポイントや見どころをお願いします!
見る人によって受け止め方が違うと思うので、見た後に人と語りたくなる映画です。音楽の面でも見応え、聴き応えがありますし、音楽に詳しい方が見たらいろんな作曲家の小ネタや実際にあった話題も盛り込まれているので、それだけでもすごくワクワクします。演奏シーンはホールのいち観客として没入できるので、ぜひ映画館で見てほしいです! シリアスなシーンだけではなく、クスッと笑えるブラックジョークもあって、見やすくて時間があっという間でした。私はもう1回見たいです!
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映画『TAR/ター』は、5月12日(金)より全国公開。
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取材・文:山田果奈映、クランクイン!編集部/写真:松林満美
『TAR/ター』クランクイン!作品情報
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