山寺宏一、ディズニー日本版声優歴30年超え! 『美女と野獣』から始まった軌跡を振り返る
山寺:『ワンス・アポン・ア・スタジオ -100年の思い出-』のためにこれまで演じてきたキャラクターの声を新たに収録したのですが、実はロビンさんの声が使われていることは収録した後に知ったんです。続編の『アラジン ジャファーの逆襲』やテレビシリーズでは、ダン・カステラネタさんが声を担当していて、あとモノマネがすごく上手い方もいるので、てっきりそのうちの誰かが収録したのかと。ドナルドも元祖のクラレンスさんと聞いて、驚きました。
今回収録した一人ひとりのセリフは短かったのですが、『ワンス・アポン・ア・スタジオ -100年の思い出-』の最後のシーンは圧巻ですよね。みんなが集合した写真は、すごく大きなサイズで欲しいくらいです。売っていたら結構な額出します! 大きな1枚でキャラクターを一人ひとりじっくり眺めたいです。
ーー同感です! そして数々のディズニー作品に携わってきた山寺さんが『ウィッシュ』で演じるのが、子ヤギのバレンティノです。字幕版では“アメリカ版山寺さん”と言っても過言ではない、多数のディズニー作品で声優を務めているアラン・テュディックが演じました。生まれたての子ヤギという見た目に対して、低くて深みのある声の持ち主というギャップに驚いたのですが、どのように役作りをしたのでしょうか?
山寺:僕が日本版アランさんと言ったほうが正しい気がします(笑)。今回はアランさんの元の声がありつつ、声質が違いますから、引っ張られすぎないように無理せず役作りをしました。アランさんの感情表現を基にバレンティノの映像も作られていると思うので、ニュアンスは寄せて作っています。
バレンティノは、もともとしゃべれるようになる前の鳴き声はかわいいんですけど、スターのいたずらなのか、本人もびっくりするほどの低い声で。かわいらしい見た目ながら、人生経験豊富なおじさんのようにどこか達観していて、でも生まれて3週間しか経っていない。そういうところが魅力だと思うのですが、それをどうやって声に落とし込むのかは非常に難しかったです。
しゃべりには子ヤギ要素は残していないんですけど、気持ちだけ、まだ生まれて3週間で全部知っているわけじゃないということは意識しました。途中で簡単な数を数えられなくなるシーンもありましたから(笑)。ただのおっさんになってはいけないと、肝に銘じながら演じました。
アランさんは、ものすごく緊迫した場面でも、少しホッとさせてくれるような緩急の付け方が上手で、字幕版を見ている人がバレンティノの一言で「ここでくすっと笑うんだろうな」と思えるシーンは日本版でも笑ってほしいと思い、“笑いを狙わずに狙いに行く”ということは気を付けました。
ーー『美女と野獣』から『ウィッシュ』まで30年以上、ディズニーが100年あるうちの約3分の1を声優として山寺さんは関わってきたわけですが、一貫してディズニー作品の吹替えで大切にしていることはありますか?
山寺:ありがたいことに、こんなにたくさんのディズニー作品に携わらせていただいているのですが、「また山ちゃんか。同じじゃん」なんて言われることもあるんです。だからこそ、今までたくさん演じていることなんて関係なく、バレンティノはバレンティノとして作品の中で輝かないといけないと思っています。毎回プレッシャーをすごく感じるのですが、吹替えた声が作品をダメにしてしまうのは簡単なことだと思っています。
ディズニー・アニメーションは洗練されていて、出てくるキャラクターがどれも魅力的。それを日本語に吹替えた時にセリフがダメだと台無しになってしまう気がしていて。なので、英語圏の方がオリジナル版を見たときと同じように、日本版でもキャラクターの魅力を感じられるようにするというのは難しいことなのですが、役の魅力を最大限に引き出して表現することを意識して吹替えをさせていただいています。
(取材・文:阿部桜子 撮影:クランクイン!編集部)
ディズニー・アニメーション最新作『ウィッシュ』は全国公開中。