浦沢直樹『PLUTO』アニメ化 “5歳の浦沢少年”の評価が「一番きついんです(笑)」
『PLUTO』より
――構想段階から10年以上の歳月が流れましたが、その間に時代も大きく変化しました。いま2023年にこのアニメーションが配信されるというのにも大きな意味があるのかなと。
浦沢:2003年が、手塚先生が設定したアトム生誕の年です。僕は『PLUTO』を描いているとき、2003年は無理かと思っていたのですが、そこから20年経ったいまなら、この世界は「あるかも」と思えるんです。その意味で、人類は手塚治虫という人の発想に追いつくようにがんばっている節があるのかなと感じています。
――科学の進歩もそうですが、現代の世界情勢と重なっている点でも、『PLUTO』が今にアニメ化されたということに大きな意味があるように感じられます。
浦沢:その点に関しては「まだこの話が有効なのか」という複雑な気持ちです。セリフ一つ一つ取り上げても、ハッとするような発言が多々あります。「こんな世界がなくなりますように」と祈りを込めた作品でもあるのに、相変わらずこの話が有効な世界がある。そこにジレンマを感じます。
――Netflixで世界配信されるというのもすごく大きなめぐりあわせですね。
浦沢:そうですね。そういう機会がこの作品に与えられたというのは縁を感じます。僕自身、手塚治虫さんのファンとして子どものころからバイブルのように読んできた漫画だったので、それに手を出すというのは、ある意味命がけの取り組みです。それが世界に届けられるというのは、あのとき恐れずにこの作品に取り掛かって良かったなと思います。
――命をかけてというのが伝わるような力作ですが、どんなところが苦しかったですか。
浦沢:一番は肉体です。『20世紀少年』を連載していたときに体を壊していまして、エンディングが描けないんじゃないかという状況だったのに、そのまま2003年に『PLUTO』に突入してしまった。正直描ける状態ではなかったのですが、連載の「ビッグコミックオリジナル」が隔週誌だったので、1回おきにしてもらえれば、月1になるんです。それだったら描けるかなと。2003年というアトム生誕の年にこの作品を描くことの意義は自分でも分かっていたので、この作品を描くという衝動が、描けないものを描ける体にしてしまったような感じでした(笑)。