是枝裕和が語る、『怪物』での“働き方改革” 育児中の安藤サクラや子役にサポートを用意
是枝:そうです。撮影現場の労働環境については、今、試行錯誤しています。これが正解だとは思わないんですけど、どういうサポートをしたら、役者だけじゃなく現場で働く人たちが、より安心して働けて、家庭と両立できるのかを、模索しないといけないんですけど、作品単位でやっていても限界があるんです。
やれる限りやろうとは思っているんですけど、 日本の映画業界全体が、もしくは日本の社会全体が、どういう風に女性の職業参加、もしくは復帰っていうものを捉えていくかちゃんとやらないと無理だと思っています。
でも、やっぱり、日本は特に遅れていて、僕の周りでも、出産を機に現場を離れたっていう人たちが何人もいて、そこから復帰もしにくいんです。だから、若者と女性の離職をどういう風に食い止めていくかっていうことがとても大事だなと思ってるので、 頑張ります。
ーー今年パク・チャヌク監督にも同じ質問をしたんですけど、映画業界の労働環境は昔と比べて良くなってきているのでしょうか? チャヌク監督は、『渇き』(2009)の際は徹夜作業が多く苦労したけれど、現在韓国では週52時間労働を厳守しなければならず、改善されていると言っていました。
是枝:休みをちゃんと取ろうっていう意識を持ったり、どのくらいの時間で切り上げるかを考えたりしているので、自分の現場は、少しずつ良くなってると思います。現場のルールは、一作ごとにまだまだ学んでいる状態なんですけどね。
今回はインティマシーコーディネーターの浅田智穂さんに参加していただいて、子どもたちの支援に立ち会ってもらいました。でも、浅田さんに「『万引き家族』のときに、こういうやり方をしたんだけど」って言うと、「今のルールだったらこうしますね」ってアドバイスをいただいて、ルールを日々更新していかなきゃならないんだと実感しました。
韓国も日本と同じように昔はブラックだったと思うんですけど、多分この10年ですごく変わったんですよね。それは、ちゃんとルールを導入して、厳格に守るという意識ができたからだと思いますけど、まだ日本はそこまではいかない。
ーーそれでは、今後も模索しながら?
是枝:この春に、日本映画制作適正化機構(映画制作を志す人たちが安心して働ける環境を作るために、映画界が自主的に設立した第三者機関)ができて改善して、改革の意思表示はしたけれど、全然足りていないと思っています。ちゃんと監視をして前に進んでいかないと、本当に若い人と女性が、映画業界からいなくなってしまう。なので、業界全体で取り組んでいきたいと思っています。(取材・文:阿部桜子 写真:池村隆司)
映画『怪物』は6月2日より全国公開。