小野塚勇人、『恋のしずく』出演で変化した俳優像 大杉漣さんとの“忘れがたい”経験とは
青柳翔、鈴木伸之、町田啓太らがメンバーで、各々の個性が強く光る劇団EXILEの中でも若きホープとして光彩を放つ小野塚勇人。『仮面ライダーエグゼイド』の九条貴利矢や『HiGH&LOW』シリーズのキリンジで目立ったが、最新出演作『恋のしずく』では、これまで見たことのない小野塚の様々な表情が収められている。「あのときに僕ができるベスト」と入念な準備を重ねて臨んだ役への誇りを胸に、大杉漣さんとの忘れがたい経験を、真摯にインタビューで語ってくれた。
【写真】『恋のしずく』場面写真&小野塚勇人インタビューショット
『恋のしずく』は川栄李奈が映画初主演を務める、東広島市・西条を舞台にした酒蔵の物語。ワインソムリエを目指す詩織(川栄)は、大学の実習で苦手な日本酒の酒蔵に世話になることに。渋々出向いた詩織に、蔵元の輝義(大杉)と息子の莞爾(小野塚)は素っ気ない。しかし、誠実な蔵仕事の様子に心を動かされた詩織は、一から酒造りに向き合っていく。
西条と言えば、兵庫の灘、京都の伏見と並び、日本三大酒処のひとつとして有名な場所。蔵元の息子という役にあたり、小野塚は方言指導者を現場に入れることを自らお願いしたほか、実際の酒蔵を見学し、土地の空気を体に叩き込んだ。演じる莞爾は、父に反抗し乃神酒造の跡継ぎにはならないと言いながらも、芳しくない経営を立て直すため影で必死に奔走したり、家族への複雑な想いを抱える人物像。少しずつ距離が近づいていく詩織役の川栄については、「“こうしよう”という話し合いも、何かを仕掛けるとかもなくて、川栄さんが詩織だから、僕も本当に自然にできました。すごく魅力を持った方だと思います」と、賞賛する。
本作では、静かながらも喜怒哀楽をカメラの前で表現してみせた小野塚の、いくつもの表情に心を奪われる。「自分が自然と莞爾になれている感覚がありました。小市(慢太郎)さんにも“時が経つにつれて、お前どんどん莞爾だな”と言われて」と、「演じる」こととは異なる「人物になっている」感覚で満たされていたそう。「あのときに僕ができるベストだったと思います。もしかして、年を重ねていろいろ経験したら、この役はできないんじゃないかとも思う。これから自分がやっていく中で、すごく心に残る作品に出会えました。本当に素晴らしいキャストの皆さんとやれたことが、自分にとっての自信にもつながりました」。
中でも、本作が遺作となった大杉さんとの共演は忘れがたい。劇中、父に反抗心を持つ息子という関係性となったふたり。心の奥底に留めておきたいこともあるだろうが、話せることがあればと切り出したこちらに向かい、小野塚は真っすぐな視線を向け、「初めての経験をしました」と打ち明けてくれた。
「大杉さんが父としてたたずむとき、“スタート”となってから出る空気感に鳥肌が立ちました。大杉さんの周りから出るオーラなのか、何なのか…いまだに言葉にできないんです。何がいい、うまい云々ではなくて。それから、自分の中の俳優像みたいなものが少し変わったんです。現場をオーラのような空気で包み込むひとりの俳優の力を目の前で見られたことは、自分にとってすごく貴重な経験でした」。
「この作品で、大杉さんと一緒にやらせていただけたことのありがたみ…一方的ですけど、本当に感謝の気持ちしかありません。それに…やっぱりそういう俳優になれればと思いました。もしも、もしそうなれたら、できるようになったら、すごく素敵なんじゃないかと思うんです」。小野塚の俳優としての転機となった『恋のしずく』。「酒と恋はいずれも人知を超えた神様からの恵みともいえる深遠な世界」と瀬木直貴監督は言うが、俳優業もそれに近いのかもしれない。(取材・文・写真:赤山恭子)
映画『恋のしずく』は、10月20日より全国公開。