有村架純、撮影現場での苦労を告白「実は私、泳げなくて…」
「そこは、あの日に戻れる喫茶店…」。2017年の本屋大賞にノミネートされ“4回泣ける”と話題を集めたベストセラー小説を、ドラマ『リバース』『重版出来』『アンナチュラル』の演出家・塚原あゆ子が監督した『コーヒーが冷めないうちに』。ある席に座ってコーヒーを飲むと、望んだ通りの時間に戻ることができる喫茶店で、まるで“バレエのよう”にコーヒーを入れる主人公の時田数を演じて、作品の中心に凛と立つ有村架純に話を聞いた。
【写真】かわいい笑顔を向ける有村架純ほか、インタビューフォト
「ファンタジーって、現実世界には起こらないことだけれど、それが作品の中では本当になる。観てくださる方が自然とこの映画の世界観に入れるような作品になればいいなと思いました」と有村が語る通り、ファンタジーでありつつも、本作で描かれるのはあくまでも人間ドラマ。それぞれに胸を打つエピソードがオムニバス形式で連なるが、有村は、中でも若年性アルツハイマー病に侵された妻を薬師丸ひろ子が、その夫を松重豊が演じる一組夫婦の物語に惹かれたという。
「完成したシーンを観ても涙が浮かびましたし、撮影現場での雰囲気もすごいものがありました。現場で鼻をすすっている人もいましたね。温かさはありますが、静かに進んでいく感じで、独特な空気感でした。薬師丸さんと松重さんですからね。ずるいです(苦笑)」。
コーヒーを入れることで、どこかの時間に戻りたい人を誘っていた数だが、次第に彼女自身の物語が明かされ始める。そして数自身もタイムスリップすることに。タイムスリップの瞬間、その人は水中に落ちる感覚を味わう。出来上がりの映像は、とても神秘的で美しい水中シーンだが、演じる役者たちは、衣装を着たまま、実際に水に落ちなければならなかった。
「2メートルくらいの大きな水槽がスタジオにあって、そこに飛び込んだんです。でも実は私、泳げなくて…」と有村。それでも「潜るくらいだったらいけるだろうと思って」と、そのことを周囲に話していなかったのだとか。「水中での泡の感じも撮っているので、落ちて衝撃を与える必要もあって台に座っていたんです。だけど、やっぱり飛び込むのが怖くなっちゃって。10分くらい入らなかったら、周りがざわざわし始めちゃったんです」と振り返って苦笑い。
「これは早く入らないと、と頑張って飛び込んで、無事に3カット撮りました」と、なんとか乗り切ったが、「もうしばらくはいいです」と漏らす姿から、苦労がひしひしと伝わってきた。
物語はほぼ喫茶店で進む。限定された場所での展開ながら、季節ごとに変わる写真に彩られた壁をはじめ、全体のデザインから小物まで、すべてが目を引いて飽きさせない。レトロ感あふれるレジにも「『ひよっこ』にもありましたけど、こうしたものが一つあるだけで、雰囲気が出ますよね。昔からずっと大切に使ってきたんだなという感じがします」と感想を漏らす。
有村自身にも受け継いでいるものがあるそう。「ずっと前、いつだったか忘れてしまったくらい前に、おばあちゃんからネックレスをもらったんです。デザインが違うものを3つ。もうちょっと年齢を重ねたら似合うかなと思って…まだ付けたことはないんですけど」と笑顔を見せた。
「数の気持ちに引っ張られてしまう」とまだ客観的に観られないという有村だが、最後にメッセージ。「4回泣けると言われていますが、そこは人それぞれなので。泣けますよ! とは言えませんけれど、気持ちを揺さぶられる人がたくさんいてくれたらと思います」。(取材・文:望月ふみ 写真:松林満美)
映画『コーヒーが冷めないうちに』は全国公開中。