【レビュー】『FANTASIAN Neo Dimension』は年末年始の余暇におすすめ 腰を据えて遊べる骨太RPGの世界を大冒険
「ファイナルファンタジー」シリーズの生みの親・坂口博信氏と音楽を手掛けてきた作曲家・植松伸夫氏が贈るRPG『FANTASIAN Neo Dimension』が、Nintendo Switch/PS5/PS4/Xbox Series X|S/Steam向けに発売中。2021年にApple Arcadeで配信された『FANTASIAN』に豪華声優陣のボイスや新難易度「NORMAL」を追加した完全版である本作を遊んで感じた魅力などを語っていきたい。今回遊んだのはPS5版だ。
【写真】ジオラマとCGの融合が美しい 『FANTASIAN Neo Dimension』スクリーンショット
■手作りジオラマとCGによる温かみのある映像で描かれる王道ファンタジー
本作は、記憶をなくした主人公・レオアが仲間とともに、人の感情と命を奪う死の球体「死械球」が覆い尽くそうとする世界や謎多き機械の世界など、多次元の謎を解き明かしていく冒険譚。
まず目を引くのは『FANTASIAN』のときから話題になっていた、150点を超える手作りジオラマとCGの融合で表現された温かくも美しい世界。カメラは固定されており決まったアングルからしか背景を見られないが、新しい街やダンジョンを訪れるたび様々なオブジェクトが目を引き、Nゲージを見ているようなワクワク感が冒険心をくすぐってくれる。
一見ではわからないところに宝箱があったりするので隅々まで世界を探索したくなる (C)MISTWALKER/SQUARE ENIX
ただ、この固定式のカメラが移動において不便さを生んでいるところもある。カメラはキャラクターが特定のポイントまで移動すると別アングルに切り替わるために回転するのだが、このとき移動し続けていると、キャラクターがあらぬ方向に動いていってしまう。これを解決するには一度左スティックをニュートラルに戻す必要があるのだが、一瞬とはいえこの手間は煩わしい。あと、移動速度の遅さも少し気になった。
■独自システムによる戦略性の高いバトルがクセになる
戦闘はランダムエンカウント方式で発生し、3人パーティーで戦うターン制のコマンド選択式バトルが採用されている。本作の戦いにおいて最も需要なのは、攻撃(通常攻撃の「たたかう」と技や魔法の「スキル」)の軌道だ。攻撃は軌道を変えて自由に攻撃対象を決められるので、弧を描くように魔法や武器を飛ばして後ろにいる敵を攻撃したり、敵が密集している場所を貫通属性でまとめて攻撃したりできる。戦闘画面右下のタイムラインを見て、どのスキルをどんな軌道で使うことでこちらのターンを継続できるか考えるのが楽しい。
貫通属性の攻撃はいかに多くの敵を巻き込んで攻撃できるかが大事 (C)MISTWALKER/SQUARE ENIX
弓なりの軌道で後ろの敵を攻撃することもできる (C)MISTWALKER/SQUARE ENIX
また、本作の特徴的な戦闘システムに、エンカウントした敵を一時的に異次元にストックしてまとめて戦える「ディメンジョンシステム」というものがある。実際に遊んでみるまでは「ただ問題を先送りにしてるだけでは?」と思ったが、いざ試してみると、通常の戦闘とは一味違った魅力を味わえた。
大量の敵とまとめて戦えるということは、いちいちエンカウントして戦うときより、スキルでより多くの敵を巻き込むことができるということ。しかも、異次元には「ディメンションギミック」という攻撃を当てることで「再行動」や「攻撃力ブースト」といった恩恵が受けられる仕組みがある。敵を攻撃しながらパーティを強化することができるため、大量の敵をなぎ倒す爽快感がたまらない。
キラキラ光る剣マークのギミックは、攻撃するとパーティ全員の攻撃力をアップできるため積極的に狙いたい (C)MISTWALKER/SQUARE ENIX
こう書くとプレイヤーに有利な要素しかないシステムに聞こえるかもしれないが、もちろんそんな都合のいい話しはない。敵が物量で攻めてくるため攻撃の軌道やどの敵を優先して倒すかをきちんと考えないと力負けもするし、敵の中に全体強化スキルを持つ個体がいれば、大勢の敵が強くなって目も当てられないことになる。「ディメンジョンシステム」は状況に応じてオンとオフを切り替えて乱用は避けよう。
ボス戦でも攻撃の軌道は大切。本体以外にも攻撃可能な部位をもつボスには体を避けるように軌道を調整して尻尾を攻撃したり、自身を守る壁のように雑魚敵を召喚するボスを貫通属性のあるスキルでまとめて貫いたり。部位破壊をすることで弱体化を狙えることもあるので、敵の行動を観察することが攻略のカギになる。
ボス戦中に発生する会話にヒントが隠されていることも (C)MISTWALKER/SQUARE ENIX
ところで、本稿で語っている所感は難易度「NORMAL」で遊んでのものになるのだが、筆者は「NORMAL」でも十分に戦闘が手ごわいと感じた。序盤以降は装備を整えていても雑魚敵が固く感じるし、ボス戦も弱点属性を突くだけでは勝てずパターンやギミックを考えないと普通に全滅する。手に汗握る戦いを楽しめるともいえるが、新たに難易度を追加するのであれば、戦闘を気にせずストーリーに集中できるイージーモードも個人的には欲しかった。また、ストーリー後半にいくほど戦闘時間も長くなるので倍速機能がないのももどかしく感じた。とはいえ、あくまでも「NORMAL」であることを考えれば、難しすぎず簡単すぎない絶妙な塩梅。難易度「HARD」はオリジナル版の『FANTASIAN』と同様の難易度なので、腕に自信のあるプレイヤーはぜひ挑戦してみてほしい。
■王道ストーリーと豊富なやりこみ要素でプレイヤーを飽きさせない
物語が進むにつれて主人公・レオアがなぜ記憶を失っていたのかや世界を覆う死械球の謎が明かされていく物語はわかりやすく王道で、ゆえにコントローラーを動かす手が止まらない。レオア役の内田雄馬を始めとした人気声優たちが演じる個性的な仲間キャラたちの掛け合いも楽しく、筆者は特にレオア&シャルル(CV:長谷川育美)のラブコメアニメみたいな関係性と、ジニクル(CV:小西克幸)&エズ(CV:伊瀬茉莉也)の漫才のようなやり取りがかわいくて好きになった。
冒険の先々でレオアたちの前に立ちはだかる三人組「シンデレラ三連星」。紅一点のマリガを恋敵だと勘違いして妬くシャルル。かわいい… (C)MISTWALKER/SQUARE ENIX
祖父と孫くらい年が離れていそうなのに、子どもっぽい掛け合いがほほえましい (C)MISTWALKER/SQUARE ENIX
また、物語の中では特定の場面で「記憶」という回想シーンが差し込まれることがある。ここでは登場人物たちの過去や人となりがフルボイスでビジュアルノベル風に描かれ、物語への没入感とキャラクターへの感情移入を高めてくれる。1周目は絶対に早送りやスキップをせず、テキストと声優陣の演技をじっくり堪能してほしい。万が一スキップしたりもう一度読みたくなったときは、△ボタンで開けるキャンプメニューから、一度見た記憶をいつでも読み返せる。
捨て子だったヒロインのキーナ(CV:諏訪彩花)。彼女と彼女の育て親・オーウェンの絆や、出生の秘密には思わず目頭が熱くなった (C)MISTWALKER/SQUARE ENIX
ストーリーを追っていくだけでも楽しい本作だが、RPGらしくやりこみ要素にもぬかりがない。世界各地に配置されたカギ付き宝箱の回収や、多彩なサブクエストの消化。ストーリーが中盤を超えると解放される「成長マップ(スキルツリー)」で理想のキャラ育成を目指したりと、やれることが中々尽きない。ワクワクするストーリーと歯ごたえある戦闘が楽しめる本作を、年末年始の休暇でじっくり遊んでみてはいかがだろう。セーブデータを製品版に引き継げる体験版も配信中なので、気になった人は体験版から試してみてほしい。
『FANTASIAN Neo Dimension』は、Nintendo Switch/PS5/PS4/Xbox Series X|S/Steam向けに発売中。