本木雅弘、“ミスター・ラグビー”平尾誠二さんの中に感じた“ノブレス・オブリージュ”
今回、闘病する平尾さんの姿を演じるために、役にのめり込むことでは定評のある本木だけに徹底した役作りを行った。
「平尾さんはご病気の最中も、講演の仕事を引き受けたり、解説をしたりと、痩せてる理由がガンということは明かさず、表舞台に出続けられた。もし自分だとしたら、その変化した見た目が晒されていくと精神がもたないと思うんですが、平尾さんは好奇な目で見られても、自分の役割や立ち位置がブレずにいました。
痩せているお姿の写真もあったので、そういうのも感じつつ、撮影をしながら3週間でその姿に近づくことが私に課されたことでした。顔はゲソってするのにも限界があるんですよね、体のほうがよっぽど痩せたんですけど。とにかく3週間で10キロ減らすのを目標にして、当初71~72キロあった体重を、60~61キロくらいにと目指しました。具体的には、ジュースクレンズっていって、ファスティングですね。半断食。あとは、合間合間に有酸素運動を入れていく」。
必死に取り組みながら、ある思いも抱えていた。
「自分は期間限定でゴールに向かい、それが終わればなんでも食べられると思ってやっているわけじゃないですか。それと実際の闘病で本当に内側から枯れていくような痩せ方というのは全然違うんだなというのを痛切に感じましたね。だから、その意味で、病魔の恐ろしさを思うとともに、そういう中でも、あんなに自然体でいられたという平尾さんのすごさを改めて感じることになりました」。
さらに、「いろいろな人の証言の中で、華やかで悠々として、動じなさがあり、いい意味で自分のスター性をきちんと活用できる人ではあったけども、元々の平尾さんが持っている性質はとても繊細で、シャイなところがあるそうなんです。本来的には自ら進んで表に出ていきたがる人ではない。親しい方も、晩年あの姿をもってしても表に出ていくという強靭さはどこからくるのか謎だったというお話を読みました。それは、欧米でいう、“ノブレス・オブリージュ(noblesse oblige)”、地位ある者は社会的にも果たす責務があるはずという考え方です。それをまっとうしたんじゃないかと解釈されたそうで。つまり、ラグビー界の未来のために最後の最後まで身を捧げようと思われたんじゃないか。病気に向き合うと同時にその覚悟を決めたんじゃないかと。さらに心を動かされました」と気持ちを寄せる。
「平尾さんが言うように、個々に目標を設定して、そこに全身全霊向かっていくという姿勢が大事なのではないかと。ダイエットはそこまでのこととは言えませんが、平尾さんを演じる上で、最低限の礼儀として自分がカメラの前に立つ時に課すべきプロセスだと思いました」。