世界中を感動の涙で包み込んだ映画『ルーム』がいよいよブルーレイ&DVDでレンタル開始。閉ざされた世界から未だ見ぬ世界へ、劇的な変化を遂げる環境の中、唯一揺るがなかった母と子の固い絆が、再び観る者の心を締めつける。(文:坂田正樹)
誘拐犯によって7年間、狭い「部屋」に閉じ込められていたジョイ(ブリー・ラーソン)。そこで生まれた5歳の息子ジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)にとって、この小さな空間こそが世界の全てだった。だがある日、密室生活に限界を感じたジョイは、ジャックの将来のため、自身の人生を取り戻すため「部屋」からの脱出を決意する。
エマ・ドナヒューの大ベストセラー小説『部屋』をエマ自らが脚色し、『FRANK ‐フランク‐』などのレニー・アブラハムソン監督が映画化したヒューマンドラマ。密室に7年間も閉じ込められていた母と子が命懸けの脱出を決行、隔絶された世界から社会という大きな世界に飛び込んだ彼らの戸惑いや葛藤をエモーショナルに描く。
7年間の密室生活、そして命懸けの脱出と、スキャンダラスな舞台設定はヒリヒリするようなサスペンスを生み出しているが、メガホンを取ったレニー・アブラハムソン監督が「極限状態での母性や、人間が立ち上がる力に惹かれた」とインタビューで語っているように、この物語は、母と子の「固い絆」があれば、どんな逆境も乗り越えられると私たちに強く訴えかけてくる。奇跡を起こすジョイとジャックの無償の親子愛は、今、子育てに奮闘している人も、これから親になる人も、さらに言えば、かつて子供だった誰もが共感せずにはいられない。
第88回アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演女優賞、脚色賞の主要4部門でノミネート(うち主演女優賞を受賞)され、世界64の映画賞を受賞するなど、まさに賞レースを席巻した本作。Varietyほか米有力紙や評論家からも大絶賛を受けたその大きな理由は、母と子の普遍的なテーマを、脱出劇によって転換する「サスペンス」と「感動ドラマ」のかつてない構成で描いている点だ。
自身の人生を取り戻し、ジャックに本当の世界を見せたいと決心したジョイ。だが、そこに待ち受けるのは、脱走に成功するか否かというサスペンス映画の着地点ではない。「部屋」から飛び出した母子が、いかにして現実社会に適応していくかに焦点を当てていくところが本作の肝となる。予測できる顛末を全て裏切る展開に、真の「絆」が浮き彫りにされていくところが高く評価された。
斬新な切り口で世界を驚かせた本作も、この二人の演技がなかったら成立していなかったことだろう。まずは、母ジョイを演じたブリー・ラーソン。ジェニファー・ローレンス、ケイト・ブランシェットら錚々たる女優が名を連ねる中、本作の鬼気迫る演技で第88回アカデミー賞主演女優賞を受賞。前作『ショート・ターム』でも悩み多きケアマネージャー役で絶賛を浴び、今、最も注目される若手女優の一人。一方、息子ジャックを演じたジェイコブ・トレンブレイは、アブラハムソン監督に「まるでカジノで大金を当てたような気分だった」といわしめたほどの逸材だ。
1989年、米カリフォルニア州出身。TVシリーズ『ユナイテッド・ステイツ・オブ・タラ』(09~11)で人気を獲得し、続く映画『ショート・ターム』(13)、『ルーム』(15)での演技が高く評価され、若手演技派女優の急先鋒として注目を集める。最新作はマーティン・スコセッシ製作総指揮のアクション『Free Fire』、トム・ヒドルストン共演のファンタジー『Kong:Skull Island』、製作・監督・主演を兼任するコメディ『Unicorn Store』など。
2006年、カナダ出身。5歳の時から映画、TVのオーディションに参加。2013年、『スマーフ2』で主人公夫婦の一番下の息子を演じ注目され、その後、数々のTVシリーズに出演。そして映画『ルーム』のジャック役に抜擢され、シカゴ、ラスベガス、サンディエゴの映画批評家協会賞。最新作は『ジュラシック・ワールド』コリン・トレヴォロウ監督の新作『The Book of Henry』、ジュリア・ロバーツ共演のドラマ『Wonder』など。
今年3月に開催されたジャパンプレミアで初来日を果たしたジョイ役のブリー・ラーソンとジャック役のジェイコブ・トレンブレイがインタビューに応じ、本作への意気込みや役柄を超えた二人の絆について語った。(取材・文・写真:坂田正樹)
ブリー・ラーソン(以下、ブリー):ジョイ役をいただいてから、準備に8ヵ月かけました。まず、私が掴まなければならなかったのは、そもそも「部屋」に閉じ込められる以前の彼女はどんな人間だったのか、ということ。例えば、学生時代はどんな女の子だったのか、両親との関係は良好だったのか、子供の頃の夢は何だったのか…。つまり、ジョイという一人の女性に「誘拐」という心的外傷が加えられた時に起こる変化を、私なりに足し引き算をしながら模索し、皆さんが映画の中で最初に出会うジョイを作り上げていったのです。
ブリ―:精神医学の教授ジョン・ブリエール医師から「人間は受け止めきれないことが起きた時、生きるために脳が意識を遮断することがある」ということを学びました。肉体的には、栄養学の先生の指導を受けながら食制限とトレーニングで体脂肪を12%まで落とし、ほとんど外出をしない隔離された生活をしばらく続けました。なるべく太陽も浴びないようにもしていましたね。ただ、あらゆる面で準備はしたものの、いざ撮影が始まると「ジョイのことが本当に見えているのか」自分でもはっきりとわからなかった。誘拐によって「性的な虐待を受けていること」、それによって「母親になったこと」、この2点が映画の中の彼女を形成する核となっているのですが、私自身、経験したことがないので、最終的には経験者の方々にリスペクトの気持ちを持ちながら、誠実に描いていることを感じていただける演技をしなければと考えました。
ジェイコブ・トレンブレイ(以下、ジェイコブ):カメラの前で泣いた経験がなかったのでそれが大変だった。最初に泣いたのが、ママが倒れてストレッチャーで運ばれる時の撮影で、「ママ死んじゃったのかな?」と思ったら、自然に涙が出てきたんだ。あとは、「部屋」から脱出するところが凄く大変だった。だって、計画を立ててから逃げるまでがとても長いプロセスだったし、どういう風に反応すればいいのか、どんな風にアクションをしたらいいのか、最初はぜんぜんわからなかった。でも、この作品でアクションシーンをやり切ったのでジェームズ・ボンドの気持ちがよくわかったよ(笑)
ジェイコブ: 撮影が始まる3週間前くらいからブリーと一緒に過ごしたんだ。レゴで遊んだり、ピザを食べに行ったり、『スター・ウォーズ』の話もしたよ!
ブリ―:(ジェイコブに微笑みながら)そうだったわね。ジェイコブに私と仲良くならなきゃならない、というプレッシャーを与えたくなかったので、自然にそういう絆が生まれるように撮影前から一緒の時間を過ごして、一緒に遊んで、一緒に食事して、実際にセットの「部屋」へ行って過ごしたりもしました。映画の冒頭、ジェイコブがスタンドや植木に「おはよう」と話し掛ける朝の日課のような行動がありますが、あれも3週間ずっと続けていて、まるで日常の延長のような状態で撮影に臨みました。
ブリ―:確かに皆さんのイメージは変わったかもしれませんが、映画作りに対する私の気持ちはまったく変わりません。ただ変わるとすれば、作りたい映画を以前よりはある程度はコントロールできるという点かしら。より賢明な選択をして、素晴らしい作品を観客の皆さんと分かち合えるようになる、というところは少し変わるかもしれませんね。
ジェイコブ:うーん(少し考え込みながら)アカデミー賞はもちろん欲しいけれど、僕にとってそれが一番大きな夢ではないんだ。一番の夢は『マーベル』のヒーロー映画か、『スター・ウォーズ』に出ること。戦いものばかりだけどね!
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